パン作りに酵母が必要不可欠であることは、「パンが膨らむ仕組み」でわかったと思います。ここでは、微生物としての酵母について解説します。
真核生物である酵母
酵母は私たちヒトや植物と同じく細胞内に核を持った真核生物です。そして、1個の細胞だけからできている単細胞生物です。光合成能力はなく、外部の有機物を分解吸収することで栄養を摂取します。
サッカロミセス・セレビシエ
酵母(イースト)は正式な分類名ではありません。
一般的に酵母と言えば、「パン酵母」や「ビール酵母」と呼ばれているサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を指します。出芽酵母とも呼ばれています。糖を代謝しアルコール発酵を行うことが大きな特徴です。
分類学的には、カビやきのこと同じ「菌類界」に属し、その中でも「子嚢菌門・サッカロミケス亜門・サッカロミケス綱・サッカロミケス目・サッカロミケス科・サッカロミケス属」に分類される種になります。
S. cerevisiaeは私達の周囲に生息する酵母です。果実や穀物、野菜、植物、葉、茎、樹液、土壌、海、川などさまざまな場所に生育しています。
酵母の増殖方法
酵母の増え方は出芽法です。親酵母(母細胞)から小さい芽が出てだんだん大きくなって一人前の細胞(娘細胞)になったら切り離される方法です。
▼出芽による増殖が確認できる動画です。娘細胞が母細胞から出ているのがわかります。
酵母の生息環境
酵母が生育するのに必要な養分は、水、炭素源、窒素源、微量の無機物およびビタミンです。最適の条件があり、最適養分濃度、最適温度、最適pHが決っていて、酵母の種類により異なります。一般的に最適温度は32℃前後、最適pHは5~6程度の弱酸性です。
酵母の呼吸と発酵
人間や動物が呼吸をするように、酵母も酸素がある環境では好気的呼吸をします。私達は空気のないところでは生存できませんが、酵母は酸素がなくても生育できます。それを嫌気的呼吸と言います。
一般に好気呼吸は「呼吸」と呼ばれ、嫌気呼吸は「発酵」と呼ばれます。酵母は酸素があるときは、グルコース(ブドウ糖)を代謝して呼吸を行い、エネルギーを供給します。しかし、嫌気的な環境になると呼吸から発酵に切り替え、酸素を使わずにエネルギーを供給します。
- 酸素があるとき「好気呼吸」→増殖
- 酸素がないとき「嫌気的呼吸」→発酵
パン作りでは、このどちらも使います。自家製酵母作りでは酵母の増殖をし、パン作りでは酵母の発酵を使います。
どちらも知識として知っておきたい、パン作りにおける酵母の働きです。