【全4回コラム①】ボトルの中のサバイバルレース:なぜレーズンと生のブドウの酵母は「全く違うパン」になるのか?

みなさん、こんにちは! 今日から、自家製酵母の「なぜ?」をロジカルに紐解く、【全4回】の特別コラムがスタートします!

今回の連載では、感覚やイメージだけで語られがちな自家製酵母の世界を、以下の4つのテーマで深掘りしていきます。

👇【全4回・連載ラインナップ】

  • 第1弾:ボトルの中のサバイバルレース(なぜ素材でパンが変わるのか?)←★今回はココ!
  • 第2弾:酵母の4大グループ徹底解剖(誰も教えてくれない菌の正体)
  • 第3弾:長いパンの歴史の当事者(小麦の未来の話)
  • 第4弾:入り口はレシピ、出口は自分のパン作り(私たちの学びの目的)

第1弾の今回は、自家製酵母を楽しんでいる方も、これからやってみたい方も、みんなが一度は通る「いちばん根本にある不思議」についてのお話です。

なぜレーズンと生のブドウから起こした酵母は「全く違うパン」になるのか?

「レーズン酵母は元気でよく膨らむ」
「生のリンゴやイチゴの酵母は、フルーティーで華やか」
「ライ麦からおこすルヴァンは、独特のコクと酸味がある」

パン作りをしていると、当たり前のように耳にする言葉ですよね。 ここで、ちょっとおもしろい素朴な質問です。

「なぜ素材が変わると、焼き上がりのパンの特徴が変わるのでしょう?」

「それは、レーズンやリンゴの風味がそのままパンに移るからでしょ?」

1. ボトルの中は「スープ」ではなく「サバイバル部屋」

そう思った方……実はそれ、大きなカン違いなんです!

「レーズンを水に浸けると、レーズン味の酵母エキスができる」 私たちは無意識にそうイメージしがちですが、実は違います。(モチロンエキスはでますよ)

ボトルの中で起きているのは、素材の味の抽出がメインではなく、目に見えない微生物たちの「超過酷なサバイバルレース(椅子取りゲーム)」です。

素材(レーズン、生の果物、穀物など)の表面には、最初、何百種類ものいろんな菌がごちゃまぜにくっついています。 それを水に浸けて放っておくと、何が起きるのか?

その素材が持っている「糖分の多さ」や「酸っぱさ」によって、生き残れる菌のルールが決まり、大サバイバルが始まります!

  • ドライレーズンのボトルの中
    乾燥していて、糖分がめちゃくちゃ濃い環境。普通のデリケートな雑菌は「甘すぎて(水分を吸い取られて)生きられない!」と全滅します。結果として、「糖分にめちゃくちゃ強くて、パンを膨らませる力が超強いエリート酵母」だけが生き残ります。だから、初心者の方でも失敗せずに、よく膨らむパンが焼けるんです。
  • 生のフルーツのボトルの中
    水分がたっぷりで、最初からちょっと甘酸っぱい環境。ここには、レーズンとは違う「ちょっと個性派の野生酵母」がたくさん集まります。彼らが生きるために出す香りが、パンをフルーティーにしてくれます。

2. 【最大の盲点】同じブドウなのに、なぜこんなに違うのか?

「ブドウの場合は、干しブドウでも生のブドウでも、同じ酵母が育つのよね!」

そう思いますよね。でも実際は違います。 生のブドウから酵母を起こしても、もの凄く力強く「ブクブク」と発酵しますし、パンを焼くこともできますが、実は中身の菌の種類が全く違います。

ここに、誰も気づいていない最大の盲点があります。 多くの人は、酵母と言えばどれも同じ「パンを膨らませるあの酵母」1種類だけだと思っていますが、ここが大きなカン違いなのです。

実は、生のブドウの皮でブクブクと大爆発しているのは、私たちがよく知る王道酵母(サッカロマイセス)ではなく、「ハンセニアスポラ」や「メチニコビア」といった、全く別のグループの野生酵母たちなんです。

木に実っている生のブドウには、これらのおっとりした、でも糖分を見つけると最初に猛スピードで泡を出す野生菌たちがたくさん暮らしています。

一方、そのブドウが「干される(ドライレーズンになる)」と、強い太陽の光や乾燥のストレスで、生のデリケートな野生菌たちは全滅してしまいます。その代わりに、干されている最中に外部の環境からやってきた「乾燥やアルコールにめちゃくちゃ強い、王道酵母」が後天的に付着して、生息します。

  • 生のブドウ
    「ハンセニアスポラ」などの、そもそも種類(属種)が違う、生粋のフルーティーな野生酵母が爆発する。
  • ドライレーズン
    過酷な乾燥をくぐり抜けた王道酵母が育つ。

ただのザックリとした「酵母」というひとくくりではなく、そもそも種類が違う!このスタート地点の違いが見えて初めて、私たちは目の前の発酵の真実を正しく理解できるようになります。

3. ルヴァンも、ライサワーも、ホップ種も。すべては同じ「下層のルール」

さて、ここまでレーズンや生のブドウを例にお話ししてきましたが、実はこの「環境によって勝ち残る菌が変わる」というサバイバルのルールは、ブドウだけの話ではありません。

私たちがいつも仕込んでいる、あるいは憧れている、すべての自家製酵母(パン種)に100%共通する、絶対的な真理なのです。

  • 小麦やライ麦のボトル(ルヴァン・ライサワー)
    栄養(ミネラル)が満点で、放っておくとすぐに酸っぱくなる環境です。ここには、普通の酵母は住めません。結果として、酸っぱさにめちゃくちゃ強い「頑固な乳酸菌」と、「その乳酸菌と大の仲良しな、酸に強いタフな酵母」だけが生き残り、共存します。
  • ホップ種
    ホップの持つ強い抗菌作用(他の雑菌を殺す力)と、煮沸された環境をくぐり抜けた、これまた特定のタフな菌たちだけが選抜されるサバイバル部屋です。

どんな素材を使うか、どんな温度にするか、どんな水分量にするか。 人間がセットしたその「環境」というルールに合わせて、目に見えない顕微鏡の世界では、毎回必ず激しい椅子取りゲームが起き、最後に勝ち残った「ボス」がその種の個性を決めています。

世界中どこであれ、人間が仕込み、あたたかい場所に置くという行為そのものが、世界共通の絶対的なサバイバルルールになっているのです。

4. イメージに流されない、ボトルの内側の「本当の真実」

「オーガニックのブドウの恵みが〜」とか、「リンゴの優しいエキスが〜」といった外側のイメージだけでパンを見るのを、ちょっとだけお休みしてみましょう。

大事なのは、外側の素材の名前ではなく、「その素材の力を借りて、今、この種のなかでどんな菌が勝ち残っているのかな?」と、内側の真実に目を向けてあげることです。

これを知っていると、 「あ、今回はちょっと温度が低かったから、彼らの活動が鈍いな」 「生フルーツの別の菌が暴れて、生地を柔らかくしちゃったんだな」 と、パンのちょっとした変化の理由が、ロジカルに見えてきます。

ただの「なんとなくのコツや勘」から一歩進んで、目に見えない小さな主役たちのチームワークを感じながら焼くパンは、きっと今まで以上に愛着がわくはずです。

みなさんの育てているボトルや種の中では、今、どんなサバイバルレースが行われていますか?想像してみてくださいね。

💡 さらに一歩、深い科学の世界へ

記事の中で登場した、生のブドウの皮で大暴れする野生酵母「ハンセニアスポラ」。 この菌が、具体的にパンの風味や生地にどんな影響を与えているのか?そしてパン作りの世界で私たちが絶対にコントロールできるようになるべき「4大グループの酵母」の正体については、続きの会員限定記事で詳しく解説します。

泡が出ているのにパンが全然膨らまない理由、もの凄く良い香りをくれる菌の正体、そしてルヴァンの中で起きている乳酸菌との驚くべき共生関係とは?

続きの【全4回コラム②】 酵母の4大グループ徹底解剖:誰も教えてくれない「パン酵母」4大グループ徹底解剖! で、顕微鏡レベルの有益な真実をお話ししています。ここを知ると、あなたのパン作りはもっと自由に、クリエイティブになりますよ!

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